キャラクター

【智&るい】
「な――――――ッッッ」

困惑よりも鮮やかに、屋上に一つきりの、
ビル内部へ通じる扉が蹴破られた。

エスプリの効いた冗談みたいな物体が、
目の前で長々とブレーキ音の尾を引いて横滑り。

【智】
「…………」

【るい】
「…………」

胡乱な物体だった。

どうみても原付だった。

どこにでもある、
町中を三歩歩けば棒にも当たりそうな、
テレビを一日眺めていればコマーシャルの一度や二度には必ずであうだろう。

成人式未満でも二輪運転免許さえ取れば、
購入運用可能な自走車両。

価格設定は12万以上25万以下。
ただ一点、ここが公道でも立体駐車場でもなく、
廃ビルの屋上だということをのぞけばありがちだ。

黒い原付――。
目の潰れそうに黒い車両の上に、
同じだけ黒いライダースーツとフルフェイスヘルメットが乗っかっていた。

【智】
「――――」

緋の混じる夜。
影絵のような影がいる。
こちらを向く。

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